川越 敏良  Kawagoe Toshiro

中東におけるブッシュ戦略の破綻とアラブの団結

 本日の「21世紀自主フォーラムin徳島」にご参加いただきましてありがとうございます。主催者として感謝を申し上げたいと思います。
 本題にはいる前に「21世紀自主フォーラム」について説明したいと思います。
 NPO法人「21世紀自主フォーラム」は、約1年前に、多くの人々の期待を受け、立ち上がりました。
 今、世界的に枠組みが大きく変わろうとしている時代である一方で、労働組合や労働者個人、人間個人としても、今の時代をどう捉え、次の時代の道標が見えにくくなっていることを実感しています。そのような中で、「フォーラム」、すなわち「しゃべり場」を通じて、新しい道標を見出す議論ができればよいと考えています。「21世紀自主フォーラム」には、仕事や運動課題も異なる、さまざまな立場の人も参画をいただいています。今後ともこのような人々と連携をとりながらすすめていきたいと思っています。
 それでは、「中東情勢をわたしたちがどうとらえるか」ということについて報告したいと思います。
 7月、イスラエルがレバノンに空爆を行ない、地上軍も投入するなど、イスラエル軍とレバノンのヒスボラの間で激しい戦闘がおこなわれました。
 日本からみると中東は、遠い存在のように見えています。
 例えば、日本政府やマスメディアは朝鮮問題については大きく取り上げますが、中東問題ではほとんど報道やコメントがなく、大きな落差を感じています。
 8月11日に、イスラエルとレバノンの停戦を求める国連安保理決議が採択され、麻生外務大臣は、「関係各国と緊密に連携しつつ、これまでの協議に臨んできた」と述べ、「地域の安定をとりもどすために最大限努力をするよう求める」という談話が発表されましたが、9月に行なわれたレバノン国際支援国会会議では、全体では9億4千万ドルの支援が新たに表明されましたが、そのうち日本は700万ドル、割合にして0.7%の支援額となっているなど、日本政府の関心の度合いをみることができます。
 外務省のホームページをみると、日本政府の考え方がよくわかりますが、「中東和平問題はイスラエルが占領した土地をアラブに返還し和平を実現する」とあり、「イスラエルが国連決議を受けて独立したことは正当性がある」としていますが、これは誤りだといえます。
 また外務省はホームページの中で、「中東地域が石油埋蔵確認量の61.4%、世界の原油生産量の36.6%をしめており、同地域の不安定化は直接に国際社会の安定と繁栄に影響を与える」と述べているにもかかわらず、そして日本は石油の9割近くを中東に依存しているにもかかわらず、日本政府のスタンスは、傍観者的で、おつきあい支援という域を出ておらず、残念と言わざるを得ません。
 イスラエルがレバノンを侵攻しましたが、私たちは情勢を注視する必要があります。
 中東は一つの大きな火薬庫ともいわれており、中東の動きが世界の平和とも関連します。
 イスラエルのレバノン攻撃は1か月あまりおこなわれましたが、停戦の合意を受け入れられ、8月11日の発表によれば、イスラエルの死者が123人でましたが、レバノン側は1041人となっています。そのうち子どもが3分の1をしめているということです。      
 また、レバノン側には大きな損害がでています。レバノンは以前の内戦後の復興事業で累積債務をかかえており、今後財政悪化は避けられないということであります。
 今回のイスラエルとレバノン・ヒズボラの紛争は、イスラエルがパレスチナ人を殺したことはじまり、その報復としてパレスチナのハマスがイスラエル兵を拉致し、それに対してイスラエルがガザ地区を攻撃しました。ハマスとイスラエルの軍事的対決に、レバノンのヒズボラがイスラエル兵を拉致するなど、ハマスを支援したことにより、イスラエルのレバノン攻撃がはじまったというのが経緯ですが、宗教的に見るとハマスはイスラム教スンニ派で、ヒズボラはシーア派といわれており、以前は犬猿の仲であったスンニ派のハマスとシーア派のヒズボラがイスラエルに対して団結してたたかったことはいままでになかったできごとだといえます。
 イスラエルは、レバノンに対して空爆を行ない、レバノンは大きな被害を被りましたが、イスラエルは地上軍を投入しても兵力が3000人といわれるヒズボラをつぶすことができませんでした。ヒズボラとイスラエルの戦争について、多くの人々がヒズボラが勝利しイスラエルが敗北したといっています。
 停戦合意のときも、アメリカはヒズボラの武装解除を前提にしない停戦決議に同意し、一方ではイスラエルの政権内部では、ヒズボラに敗北したことの責任を求める動きが起きています。

 中東問題の背景については以下のことが言えます。
 20世紀にはいり、イギリスは、植民地支配を継続するために、アラブ国家の独立とイスラエルの建国を認めるという両方の動きをとり、アラブとイスラエルあるいはユダヤを利用したということが中東問題、アラブとイスラエルの対立のひとつの出発点と考えることができるでしょう。
 アラブとイスラエルの間には政治対立があります。イスラエルはアメリカの後ろ盾があって存続してきました。ヨーロッパにはユダヤ迫害の歴史があるため、ヨーロッパの人々には贖罪というスタンスがあります。そのようなヨーロッパの人々の心情もイスラエル存続にうまく利用されていると言えます。
 また、アメリカは、対外援助予算の約10%をイスラエルに支出しています。イスラエルは軍事大国として、世界第3位の軍事輸出を誇っていますが、イスラエルが様々な軍事行動をおこし、国連においても、この40年間で32の決議に違反するなど、さまざまな非難決議があがっていますが、アメリカはイスラエル問題について35回安保理で拒否権を発動しているということです。
 今回のレバノンにたいする攻撃に対しても、イスラエルに対する国際的な非難およびアラブ擁護の声は高まりつつあるのではないでしょうか。その意味では、大イスラエルを建設する理念は実現しない、破綻しているという流れがあると言えます。
 イスラエルを支援するアメリカの中東戦略と関連して、アメリカのブッシュ政権はタカ派の外交政策である新保守主義(ネオコン)にもとづいて、政策の立案がなされ、執行されてきたといえます。
 新保守主義は、アメリカ在住600万人といわれるユダヤロビーと700万人といわれるキリスト教原理主義によってささえられているといわれています。要するにイスラエルにユダヤの国をつくることがメシアの復活を早めるという宗教的な感覚があるようですが、共和党政権が政権を維持するためのひとつの戦略としてイスラエル支援が背景にあるといわれています。また、アメリカは石油戦略として、イラン、イラクをも含むアラブ社会を支配をしようとする課題とも関連していると考えられます。
 しかし、イスラム諸国にはアメリカに対する反発と敵対があり、イスラム世界が大きく連帯をするという流れが今起こっていると見ることができます。
 アメリカは、イスラエルに肩入れし、イスラエルを通して中東を支配しようとしてきました。イスラム諸国の反発もさることながら、国連の中においてもアメリカの一極主義は破綻してきており、今回のレバノンの停戦決議についても、一定の譲歩をせざるをえなくなったことがその証左です。
 日本の中東政策のありかたとも関連して、日本はアメリカに従属することなく、自主的な道を歩んでいくことが、今最も重要です。

(自治労徳島県本部委員長)


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